それからは、だいたい毎朝病院にリハビリを受けに通いました。
鼻緒の付いたゴム草履を履いて出かけます、草履は病院にいるときはけるようになりました。初めて裸足で床におり、汚いと言われた時スリッパを履こうとしたのですが、すぐ脱げてしまってだめでスリッパはなんの役にもたちませんでした。 少し歩けるようになってからは鼻緒の付いた物ならと草履にしたのですが、これもまるで履けません。一歩で脱げてしまいます、指が鼻緒を握らないのです。 歩く訳ではなく、車椅子に乗っているのですから、それを履いてトイレに行き小便をするだけなので履いて行きます。 いつも足に付けて履けるようになろうと努めていますと、指がなんとなく鼻緒を握ってくれるようになり履けるようになりました。(調子の悪い日には脱げてしまいすが) 足の親指と人差し指の間に鼻緒を挟んでいれば、それで脱げそうにないようなものなのに、そうではないのです。ちやんと2本の指でつかまえていたのです。 リハビリは腹筋・足の屈伸・股の開閉・手の振り・などをやります。 これも入院中に思ったことですが、相撲の四股にはなるほどと感心させられました。手を大きく真上にあげてその手のひらをパチンと打つとか、足をうんと上げてペタンと叩き下ろすなど簡単そうに見える事が、実はとても色々な筋肉の調和の上になされることだと気づきます。 椅子に座って足をペタンとやるのですが、右手で膝を押してやっても、なかなか左足からは良い音が出ません、良い音どころか骨が床に当たって痛いだけなのです。 これは地面を意識してやらねばと、それでもやっていると足の裏の反対の地面が突然受け入れてくれて、パチンと柏手を打ったような音でこたえてくれるのです。これも感激の一瞬です。 手のパチンはもっと難しいもので、良いほうの右手は地面より意地悪なのではないかと疑いたくなるくらいです。それで今でも時々しか良い音にはなりません。 そのほか作業療法は「気功」これも僕の考えでやってもらうことにしたのですが、左腕に手をかざしてもらい「気」を送ってもらうのです、 不随にはまるで力が入らないということのほかに、勝手に力が入ってしまうという事もあるのですが、勝手に力が入って硬直するのは力が入らないよりもつらいものです、その緊張をとるのにと考えたのがこの方法でした。 最初まるで素人の彼女にそんな力はなかったのですが、そのうちに本当に「気」の送られているのがわかるようになり、彼女の掌も僕の腕も熱くなり緊張がほぐれるようになりました。 なんでもやってみるものです。これはその時限りのものですから、運動能力が改善された訳ではありませんが、力を抜く方法を覚え硬直が始まったときなど、緊張をほぐすのに随分助かりました。 病院のリハビリは体のリハビリより、同じ病気になった人達の集まり話すところとしての意味の方が大きのかも知れません、直る見込みなど全然ない、ただ悪くならないための暇な病人ばかりの集まるところです。 毎日のようにみんな来て、それが仕事のように体調のことや見あたらない人の消息といった世間話しに時間をつぶすのが日課でした。 最初はタクシーで、そのうちバスで行けるようになりました。お昼に病院を出て家で食事をします。食事の支度は自分でします。妻が働きに行き、朝昼夜の食事の支度が僕の仕事です、半年そんな暮らしをしていました。 なんとか僕も働きに出なくてはと思い始めて、障害者が生活していくための訓練施設・市営の緑風荘に入所させてもらうことができたのは、発病からちょうど一年が過ぎたころのことでした。
by takaryuu_spring
| 2007-02-13 22:21
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