脳卒中・・・7

 好きな時に自分で起きられると、お茶も飲めるし、テーブルを引き寄せて字や絵を書くことだってできます。
 右は、大丈夫と思っていたのですが、字を書いてびっくり、箸を使うだけでは気づかなかったことですが、まともな字が書けませんでした。
 それからは、毎朝般若心経を一回写経、窓からの景色や、病室内を描いたりしていました。

 足が動くようにと、頑張るのですが、あまりにその動きが小さい為、動いているのかいないのかまるで分かりません。訓練用にとゴムチューブを買ってきてもらいましたが、ゴムチューブでは強すぎて、びくともしませんでした。
 スポーツ訓練用の一番弱いゴムを足の親指にくくりつけ、その端を右手でもって、まるで釣りのあたりを待つような恰好で、寝転んで足に力を入れたり抜いたりして、ほとんど一日を過ごします。
 ほんの小さくですが動いた時には感動ものです。“この感覚をのばせばいいのだな”と忘れないように繰り返すとだんだん、または急に大きく動くようになります。
 そんな訳で、入院していてもあまり退屈はしませんでした。
 動けるようになると、こんどは、地面に下りてみたくてベッドから足を下ろそうとして、妻に「まだそんなことしていかんよ」とおこられる始末。
 「どうしてもやりたい」という僕に、看護婦さんに聞いてみて、もし許可が出たらやればいい、ということで看護婦さんに聞きますと「1月4日までは主治医の先生がいないから許可できません」。僕は本当に融通がきかない人たちだから、と不満たらたらです。

 1月5日、出勤してきた先生に「足をベッドから床に下ろして、真すぐに座ってみたいのですがだめでしょうか」と聞きますと、「できるのならぜんぜんかまいませんよ」と言はれ、「ほらやっぱりいいじゃない」と思ったものです。
 ところが床に足を下ろして本当にびっくりしました。右足はちゃんと地面に着いて、足がちゃんと地面を踏んでいるのですが、左のほうは地面に触っているだけで、どんなに上から押してみても踏みしめてはくれないことに気づきました。
 「どうも、左側は地球から立つことを拒否されているな」と感じました。
 人間自分の力で立っているみたいな気がしてたけれど、地球が引ぱってくれていたのだ、木に根が生えているように、人間も瞬間瞬間だけど地球に根をおろして、地球の力を吸収しながら歩くのじゃないか?と思われました。
それからは、ベッドのへりに腰をおろし、裸足の足をベッドから出し「気」を送り地球の返事を待ちました。
あまり皆に理解はされませんでしたが、本当にそう感じ、多分それは、本当だと今も思っています。
 そんなことをしているものですから、清潔好きな妻には、我慢できるはずがありません。みんながトイレに行って踏んでいるその床に、裸足でおりて、そのまままた布団にあがってしまうのですから。
 それでこんどは、床が汚いからスリッパをはけとか、足を拭いてあげるから拭いてからベッドに足をあげろ、とか僕がどんなに言っても、解ってはもらえませんでした。
 「もう、なんでも自分でできるから、そんなこと言うのなら、居てくれないほうがいい」と喧嘩までしてしまいました。
 介護する人としては、「あれもしてあげたい、これもしなければ、こうしてもらいたいのではないだろうか、何か欲しいものはないだろうか?」と気を回すのですが、僕の方は「出来ることは何でも自分で練習しなくては、これからずっとこの体とつきあっていくには、なんでも自分で出来るようにならなくては」と思っていますから、これは喧嘩になります。
 それで爪を切るのも、二度ばかり切ってもらっただけで、後は自分で片手で切りました。考えればなんとか出来るものです。
 一人になっても忙しくって病気のことなど考える暇はありません。
手は動かすことは無理と言われたのがかえって、「よし絶対動かしてやろう」という気になったものです。
 寝ていても肩からだら~んと落ちてしまう左手ですが、ベッドに寝て右手でそれを肘から垂直に立てるのです。
 右手を離して卵たての要領でたてる練習を考えました。三日もやってこれは全然無理とあきらめました。卵を逆さまにテーブルに立てることより難しいことです。
 卵は実際正も逆も立てたことがありますが、一時間も挑戦すればなんとか一度くらいは逆にでも立つものです。
 それでこんどは指に紐をつけて、ベッドの手摺りを利用しながら、右手を使って立てたりしますが、なかなか思うようにはいきません、倒れるのはきまっているのだから、どちらに倒れるか、思いどうりに倒す訓練に切り替えました。
右とか、左とか意のままになって欲しいものですから、少し右に傾けておいて右に倒れろなどと念じたり、始めはそんな八百長ばかりでしたが、日がな一日そんなことをやっていますとだんだん本当に意のままになるもののようです。「やった!」
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by takaryuu_spring | 2007-02-03 21:48


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