包丁
本丸につれてこられ、「どうして板前などになりたいのだ?」と聞かれた。 まさか逃避行だとは言えず、「ハイ、調理師を僕は芸術家だと思うのです。それも一瞬のうちに消えてなくなる物を作るなど、最高の芸術活動とだと思って、板前になろうと思いました」とまあ良く思いつくものです、自分の思いについてそう説明したのです。 今までもいつもいいわけ人生でした。 自分の不都合を自分に納得させられなくては存在も許されませんから、その頃その点において天才になっていました。次に脱皮の兆しがあるまでその言い訳は言い訳ではなく真情であるのでまあ許せますが。 包丁はビアガーデンのバイトの時たくさんキャベツを切りましたから、怖くもなく振り下せましたから、千切りには多少自信がありました。でも割烹では少し違いました。キャベツを半分に切って千切りにし始めなどしないのです。 僕は新米で野菜の下ごしらえが仕事でしたから、研がなくてもいいような菜切り包丁を使っていましたが、職人の朝一番の仕事は包丁を研ぐ事から始まりす。 あまり料理に使わないのですが、キャベツの千切りを使う時には、キャベツを剥いて、芯を取りそれを積んで千切りにします。そのとき、トントンなど音を立ててはいけないのです。 包丁には押し切り、引き切り、削ぎ切り、叩き切りなどあって、音を立てる叩き切りなど下品な技なのです。牛刀のように両刃ではない和包丁は素材に食い込みます。 俎板に刺さり、少し揺れれば刃が欠け切れなくなってしまいます。 素材を切って俎板を切らない、俎板に触れないようにいかに音がしないように切るか、それが和食の千切りなのです。昔は和紙を敷いてその上に物を置いて練習したといいます。 刺身のつまつくりが包丁の練習で、無駄になるほどみんなで競争して作っていました。包丁の波目が見えないように、ちぎらず誰が長くできるか・・包丁が持てるようになった前田君も好きでした。できた物を新聞紙に広げて字の読めないところがあれば失格です。 割烹では仕事の半分が修行、塵の生産もしかたないのかもしれません。 使われている調理人にはものの値段は知らされません。そして練習のために無駄になってもあまり注意もされませんでした。
by takaryuu_spring
| 2006-10-08 21:10
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