和食の職人川俣さんはそれはきれいな仕事をする人で、出し巻の綺麗さなど誰もまねができません。ある日彼が天ぷら職人の新谷さんに、小麦粉にコーンスターチを入れるように進言しました。
旅館などでは入れていて、そおするとからりと揚がっていいのだというのが理由です。そして俺にやらせろといって作った天ぷらはなるほどなか綺麗なものでした。 どうだと言われでも新谷さんに納得いくわけがありません。少し言い争い、部長が天ぷらに他のものが口出しするなと諌め終わりました。 コンスターチを入れると確かにからりと揚がります。でも衣の味は半減してしまうのです。旅館で片栗粉を混ぜて腕を誤魔化している事を天ぷら職人の彼は当然知っていたのです。小麦粉だけでからりと揚げる、それが誇りだったのです。 僕が入って4ヶ月ぐらい経ったとき、今度は新谷さんが僕に包丁勝負を挑んできました。胡瓜の蛇腹です。胡瓜をアコーデオンのようにのびるように切るのですが、どちらが綺麗に早く切れるかという勝負でした。 胡瓜の両端を落とし、面取りしてから、切り離さないように包丁を途中で止めながら斜めに線に切っていきます。終ると裏表返してもう一度最後まで切れば蛇腹になっているのですが、勝負終了は同時、審判の皆がどちらが綺麗か審査していました。そこに又部長が現れ、大目玉をくいました。調理師6年の人が入ったばかりの人間に勝負を挑むなど恥を知れ、そして僕は思い上がりもはなはだしいということでたっぷり怒られてしまいました。ほとんどい店にいないのですが見ているところは見ている人です。 割烹に入って驚いた事は、塵の多さです。仕入れた野菜の1/3は塵になっています。根菜類は皮を厚くむきますし、その他どんな野菜も、見た目の悪いところはどんどん塵に回ります。煮崩れのない綺麗な盛り付けるため一緒に煮ることは少なく、それぞれを別々に調理します。魚も同じ刺身なども端はどんどんゴミ箱行き、見ていてもったいなくて「これ貰っていい」と拾い集めていました。拾い集めて自分のお昼のおかずを作るのです。 店には調理師のほかに、レジ係・ウエイトレス・仲居・そして賄いのおばさんがいました。昼の職員の食事は賄いのおばさんが作ります。調理師はお客に出すものを作るだけです。簡単で粗末なもののことが多く、これは大きな店ではたいていそうだと思います。僕は集めた塵を料理してそれもおかずにして食べていました。 ある時、昼食に帰ってきた部長に明日から俺の昼飯はお前が作れと言われ、それからはそれも僕の仕事になりました。
by takaryuu_spring
| 2006-10-07 18:46
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