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犬その5

「もう生きものを飼うのはいや、かわいそうなんですもの」と母は言っていましたが半年もした頃、大きな犬を連れて父が帰ってきました。僕が中学一年の時の事です。
「小学生が登校の時、子供たちに吠えついて困る、犬が悪いのではなく供たちが石を投げたり棒でいじめたりするのだと解っているけど、そのうちに子供を咬みはしないかと毎日心配で、それでもう保健所に頼もうかと思っている」と父の仕事場の近所の人が言うものだからもらってきたのだといいました。
「こんなに大きな犬、それに狂暴なんでしょう」と母はまた難色を示しましたがもうもらってきてしまったのですからどうしようもありません。
柴秋田とか言う柴犬と秋田犬の中間くらいのかなり大きな犬でムクという名前が付けられていました、名前を変えることもないのでそのままムクという名前で家の犬になりました。
僕の家の裏庭はどこも道にも家にも面していませんでしたから、いじめっ子も不信な人物の通ることもありませんでしたから、一声もたてません。安穏の内になんとなく家の犬に納まりましたが、その顔や大きさが僕には少しこわかったものでした。
それでも役目ですから散歩に連れては行きますがおっかなびっくり、ひやひやしながらの散歩でした。
それがある日曜日のこと、庭のカリンにつないであったムクに咬まれてしまいました。
よくは覚えていませんが多分僕が、尻尾でもふんだのです、それで咬んだのですがそれを見ていた父は竹ぼうきを持ってその柄でぴしぴし叩きました、ムクは悪いことをしたと知っているのでしょう、うずくまって耐えています、 「もういいよ」と僕が言っても飼い主に噛み付くなどということは許す訳にはいかないのだと言って手を緩めませんでした。
耳をたれてじっと我慢していたムクの目がきらりと光った時、打つのを止めこんどは打って変わって頭をなでてやりました。そして「隆介お前もなでてやれ」と言いました。
まだ恐いと思っていた時でしたから、おそるおそる座って頭に手をのせるとムカは恐縮の合図に耳を後にたれ二三度尻尾を振りました。「もう大丈夫だこれからはお前の言うことを聞くぞ、ちゃんと面倒をみてやれ」と父が言い、僕とムクは親友の約束が出来たのです。
by takaryuu_spring | 2006-09-04 19:53


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