僕と同室の早川さんは右マヒで言語もやられているため静なものでした。
若く右脳をやられた人の多くがそうですが、言葉や計算能力の極度の低下により自信をなくし、もう廃人になってしまったかのように思うもののようです。 過去の栄光に浸り、現在の自分を隠すのに必死でなかなか自分から進んで何かをやろうなどとはしません。もうあきらめてしまっているかのようです。 話も、ですからあまり好んですることもありませんし、人の輪にも入りたがらないのが普通です。 同室でも早川さんもそんなでしたから、朝の挨拶をするくらいでした。 左をやられた人はやたらしゃべる人もいますが、被害妄想みたいにいつも誰かの悪口をいっていないと気がすまないようで、愚痴っていることが多いようです。 脳梗塞に罹った中で若いと思った僕でしたが、ここでは平均より歳のようでした。まあ同年輩の人が多いのです、それなのになかなか話の合う人を見付けることができませんでした。 職員や介護の人には猫をかむり、同年配の入所者とは話が合ず、孤独な荘生活でした。 たとえ顔があっても、こちらからお早ようと言わなければ、まず「お早よう」はありませんでした。 それが最初に「お早ようございます」と挨拶を先にくれたのは、その年養護学校を卒業してここに入った田中さんでした。 (この施設は18歳以上~60歳位迄の人を対象にしています) 養護学校を卒業しても家で甘えていますから、実際には身の回りのことも一人ではできないことが多いのです。 ここではなんとか自分のことは自分でできるようにと、そんな子たちを親から離して2年間訓練するのです。 健康な人には信じられないような簡単なことが、障害のある身ではそれは大変なことなのです。 僕達脳卒中組の比ではないと思います。 田中さんもとても重い障害の子で、握力は1~2くらいで鉛筆を持つのも大変でしたし、自分の力では立つことも真っすぐ座っていることもできません。 体中の筋肉がほとんどないように思われます、ただ頭と口だけは達者でした。 田中さんに話しかけられ、おかげでその若い子達の遊びの中に入れてもらうことができました。
by takaryuu_spring
| 2007-02-25 15:50
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