板前修行6

待っていてやって来たのは2人だけした。後からもう一人来るということでした。柴田さんが頭でもう一人は3年目の細川さんです。
細川さんは、来るとすぐ前の職人の臭いの残っているもの捨て、調理場の隅々まで掃除をしていました。汚いなあ、だらしない職人だ、とさんざんです。まあ実際隅々を見れば随分手抜きの掃除をしていたのですから否定できない事で、その責任は新米の僕にあります。
借りてあった寮は解約され、ホテルの一室に住むことになりました。それは仕事から寝るまでこのビルから出ることのない生活を意味します。細川さんとは24時間同居なのです。ただただ真面目な細川さんは柴田さんしか目がなく、彼の凄い事を僕に話すだけで、柴田さんを良く知らない僕には多少の興味が湧きましたが、毎度同じで、すぐに至極詰まらない話になりました。僕に聞く気がないと、それからは何も話すこともなくなってしまいます。前の仲間のように料理についての話はしないのです。
本丸に入ったとき仕事の量以上の人がいました。そうすると周りは教えたい事一杯の人たちです、勉強して覚えた事を自慢げに話、それは違う、僕の知ってる事はこうだと意見を聞けます。
最初に習ったのは食堂で大事な事は何か?料理割烹なら、ある程度待たせた方がいい、忘れられない味も大事だけれど、店によって違うろけどここのように一見客の多い場所なら、「早い安い綺麗」だろう。結構味が最後にくるんだよね!
指で押さえても切れない刃物でも引かれれば切れそうで怖いだろう。包丁はなるべく長く引くと綺麗な切り口になる。盛り付けは平たく盛るな。立体に盛った方がおいしそうだし、沢山に見える。和食は余白も大事だ、生け花のように盛り付ける事。
鍋は外側を洗うもの、中は誰でも洗う。
味の基本は血の味だ、お吸い物の塩甘味など血に近い味にすれば美味しいと思うもの、人間誰でもドラキュラみたいなもの。など皆で話していました。

今まで6人でやっていた仕事を3人でやるのです。しかもその中の一人は半人前の僕。柴田さんは要領がよく、細川さんはその手足となって充分に働きます。でも一番仕事の増えたのは僕でした。
その日に使うものを倉庫から運び、次に野菜を洗ったり、皮をむいたり、小麦粉もふるいにかけてさらさらにしなければなりません。調理が済めば洗い場には鍋山それを洗います。その後幕の内の盛り付けです。一言の注意も受けずにこなせたのは前の先輩たちとの無駄話のお陰なのです。
何日か経ったある日朝食が済んで、柴田さんから出し巻き卵を作って置くように言われた細川さんは嬉しそうでした。
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by takaryuu_spring | 2006-10-12 23:07


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